これは私が中学生の頃、友人たちと近所の神社で遊んでいたときの話です。
夏休みの夜、「肝試ししよう」という話題で盛り上がり、地元で有名な古い神社に行くことになりました。
その神社は夜行くとよくないと言われており、理由は特に明確ではありませんでしたが、「昔、人柱にされた女性が祀られている」という噂や、「祠の中には見てはいけない古い何かが置いてある」という不気味な噂が広がっていました。私たちにとっては、その噂が逆にスリルを掻き立てるもので、肝試しの格好の場所だったのです。
神社に着くと、近くの森の中から妙に生温かい風が吹いてきました。
境内の隅にある祠は月明かりに照らされて、ぼんやりと浮かび上がっていました。古びた石の表面はコケにおおわれ、祠の扉には触るのもためらわれる程の古い錠がかけられていました。
「祠の前でかごめかごめやろうよ」
一人が提案し、誰も「怖い」とは言い出せませんでした。
なんでそんなことを思いついたのかわかりません。ただ、その場の勢いと夏休みの高揚感に突き動かされていました。
月明かりの下、古びた祠の前で輪を作り、じゃんけんで最初の「鬼」を決めました。
鬼になったのは私でした。しゃがんで目を閉じ、みんなが歌を歌いながら私の周りを回り始めました。
かごめかごめ、かごのなかのとりは…
友人たちの足音が周囲をぐるぐると動き、歌声が響きます。私は前を向いたまま、歌声や足音に耳を澄ませて、後ろにいるのが誰なのか考えました。でも、歌が進むにつれて何か違和感を感じ始めたのです。
いついつ出やる、夜明けの晩に…
私の背後を回る足音が、一人分多い気がしました。最初は「気のせいだろう」と自分に言い聞かせましたが、だんだんその「余分な足音」がはっきり聞こえてくるのです。歌声も微妙に違いました。友人たちの明るい声に混じって、どこか遠くから低く囁くような声が聞こえます。
鶴と亀がすべった…
次第に背後の気配が重くなり、全身の毛が逆立つような感覚が襲いました。私はパニックになりかけましたが、ルール通り、目を開けずに後ろに誰がいるのか当てなければなりません。
うしろの正面、だあれ?
息を飲みながら私は答えました。
「ユミ…?」
しかし、後ろの人は無言。誰も「正解」も「違う」も言いませんでした。
しばらくして低く震える声が後ろから聞こえました。
「違うよ…」
明らかに、友人の誰とも違う声でした。私は固まったまま動けません。すると再び、輪は回り始めました。
かごめかごめ、かごのなかの…
恐怖の中、私は冷や汗をかきながら歌声と足音に集中しました。でも、だんだん背後の気配が近づいてくるように感じます。次に答えなければいけないと思った瞬間、耳元で何かが笑う声が聞こえました。
その声に耐えきれず、私は目を開けて振り返ってしまいました。そこには、手を繋いでいるはずの友人たちが、全員後ろを向いて立っていました。その中に、見知らぬ白い着物の少女が混ざっていたのです。彼女の顔はぼんやりしていて見えませんでしたが、口元がゆっくりと動いていました。
私は悲鳴を上げ、全員を振り切って逃げ出しました。友人たちも慌てて続きましたが、あとで聞くと、誰一人としてその白い少女には気づいておらず、しかも、誰もかごめかごめをやろうと提案していないと言うのです。
あの夜、あの祠の前で何が起きたのか、いまだに分かりません。あの白い少女が遊びたくて混ざってきたのでしょうか。