不穏展

怖い話

最近話題の「不穏展」にきてみた。

ホラー好きの間ではかなり注目されていたイベントで、某有名なホラー作家や演出家が携わる体験型ホラーイベントだ。心霊系に限らず怖いモキュメンタリーとか、無類のホラー好きな俺はとても楽しみにしていた。

会場は、駅前のショッピングモールの一角。入場してすぐ、不協和音が耳に飛び込んできて、なんとも言えない不快感が背筋を這い上がってくる。でも、不気味さと同時にワクワク感も湧いてくるのは、ホラー好きの性だろうか。

通路には、不安を掻き立てるような絵画や写真が並んでいた。途中、怒り狂ったおじさんが叫び続けている映像も流れていて、その荒々しい声は心をざわつかせる効果音以上の威力を持っている。

あらゆる角度から不気味な気持ちや、ソワソワさせるような気分にさせ、五感に働きかけるような仕掛けが沢山あった。

平日の昼間って事と、題材も題材なだけにお客さんはまばらでゆっくり堪能していた。

会場を回っていると、途中途中に立っているスタッフの1人から紙を手渡された。そこには、

本日、この不穏展では時間の流れが外界と異なる可能性があります。確認する際は時計ではなく直感を信じてください。

と書かれていた。

妙なことが書いてあるなと半笑いしつつ、これは演出の一環だろうと受け流した。

いくつかの展示を巡り、進んでいくと「出口のない部屋」と書かれた扉にたどり着いた。正直、「出口のない部屋」というネーミングは、わざとらしいと思いつつも興味がそそられる。好奇心に負けて扉を開けてみた。

するとそこには先ほどのエリアが広がっているだけだった。壁にドアを付けただけのギミックで拍子抜けしたが、よくできたジョークだと感心した。

そのまま前のエリアに足を踏み入れると、後ろでガチャリと扉が閉まる。

ぐるりとあたりを見回すと、さっきまでいた不気味な絵が並ぶエリアだと思ったが、なにか違和感を感じた。

おじさんの怒鳴り声の映像が、なぜかおじさんが号泣している映像に変わっている。大の大人が延々と泣き続ける声が耳にまとわりつくようで、徐々に胸の奥が締め付けられるような気分になってくる。

さらなる違和感は、さっきまであった通路が消えていたことだった。通路があったはずの道が、壁に塞がれているのだ。

同じ場所に戻ったと思ったけど、実は似せた部屋なのか?なるほど、出口のない部屋ってこういう事か。確かにさっき来たはずの場所で、通路がなくなっていてすごく驚いた。よくできている。

そろそろ戻ろうと入ってきた扉の方に振り返ると、扉そのものもただの壁になっていた。

「は?」思わず声が漏れる。どういう仕掛けだ?どこから戻ればいい?

突然、現実味を帯びた恐怖が押し寄せてきた。

周囲を調べ回ったが、壁や展示物以外には何もない。換気口も窓もない完全な密室で、息が詰まるような感覚になってくる。

ハッと気づきスマホを取りだすと、画面には「圏外」の表示。まさかと思い、電波を探したり、再起動も試みたが無駄だった。スマホの充電はいつの間にかほぼゼロになり、あっという間に電源が落ちた。

「誰か、助けて!でられない!」

叫んでも返事はなく、ただ号泣する男性の声が響き続けている。音声が耳にこびりつくようで、思わず画面を叩き壊そうとしたが、液晶はびくともしない。

時間の感覚もわからなくなってきた。体感では半日以上が経過しているように思えたが、不思議なことに空腹感も眠気もない。唯一、押し寄せてくるのは焦燥感と絶望感。これが本当に「アトラクション」だと信じるには、あまりにもリアルすぎる。

疲れ果て、部屋の隅に座り込んだ。

これが演出なのか、それとも現実なのか、どちらも判断できない。

外の世界と切り離された感覚。

周囲を囲む無機質な壁。

そして、泣き続ける男の声。

それらが混ざり合い、頭が次第におかしくなっていくのを感じる。

いつまで、この部屋から出られないんだ?

どうやったら出られるんだ?

なんども外に助けは求めた。

なぁ、これただの仕掛だよな?

誰かここから、出してくれ。

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