階段のおじさん

怖い話

私には、物心つくかつかないかの小さい頃の記憶がある。鮮明というわけではないけど、その光景はずっと頭に残っている。

当時住んでいた家は、ごく普通の一戸建てだった。玄関を入ってすぐ2階まで階段が伸びていて、木の板張りのどこにでもあるような階段だ。けれど、その階段には、いつもおじさんが座っていた。

おじさんは40代か50代くらいに見えた。ポロシャツにズボンという、何の変哲もない服装。髪も特に特徴がない。無表情で、視線も合わせてこない。ただ、じっと前を向いて、階段の中段くらいに腰掛けていた。

私はその頃、「階段におじさんがいるのは普通だ」と思っていた。だから、家族にも「おじさんがいるよ」と当たり前のように話していた。でも、親は信じてくれなかった。お母さんなんか、「イマジナリーフレンドでしょ」って苦笑いしていたけど、心の中では気味が悪かったと思う。

私はそのおじさんが怖いとは思わなかった。話しかけても返事はなかったけど、おままごとで作ったお菓子(泥団子だけど)を持っていったり、絵を描いて「これあげるね」と階段に置いてきたりしていた。そんな私を見て、お母さんはどんどん不安そうになっていった。

小学校に上がる前だったと思う。ある日、お母さんが突然ヒステリックに怒った。「もうやめて!お願いだからおじさんの話はやめて!」その時の声や表情があまりに怖くて、私は「おじさんの話をしてはいけないんだ」と理解した。それからは、おじさんが目の前にいても見えないふりをするようになった。話しかけることもやめた。

すると、不思議なことに、おじさんはだんだん薄くなっていった。最初は輪郭がぼやけたように感じて、そのうち透明になって、気づいた時にはもう何も見えなくなっていた。

それからしばらくして、その家から引っ越すことになった。新しい家では、おじさんのことなんて忘れていた。おじさんを見なくなった後も、私は他に何か「見える」ようなことはなかった。だから、霊感があるとか、特別な力を持っているわけではないと思う。あのおじさんだけが特別だったんだ。

時が経ち、私は大人になり、結婚して子どもが生まれた。今、もうすぐ2歳になる娘がいるんだけど、最近気になることがある。

娘がよく、家の天井の隅っこを指差して声を出すんだ。ニコニコ笑いながら「ねえ!」とか「あー!」とか言ってる。私には何も見えないけど、その視線の先に何かあるのは間違いないみたい。

あれって…浮いてるの?それとも、そんなに大きなものがいるの…?

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