夜中の2時過ぎ。家族は全員寝ていて、リビングはしんと静まり返っている。俺はソファに横になり、スマホをいじっていた。薄暗い部屋の中は時計の針の音だけが響いている。
ふと、視線を感じて顔を上げた。リビングの大きな窓が目に入る。普段なら夜になると必ずカーテンを閉めるのに、なぜか今日は開けっ放しだった。
外は暗い。月あかりがぼんやりと庭を照らしているだけだ。そしてその庭の中央に、何かが立っているのが見えた。
人影だ。
小さく、子どもくらいの大きさ。輪郭がぼやけていて、顔の表情などは分からない。それでも、確かにこちらをじっと見ているように感じた。
「……誰だ?」思わず声を出したが、返事はない。影はじっと動かないまま、庭の闇に溶け込んでいる。俺は息を呑みながらスマホのライトをつけ、窓越しにその影を照らした。
光が届いた瞬間、その影は消えていた。ただの庭が広がっているだけだ。
「気のせいか……」自分に言い聞かせながら立ち上がり、カーテンを閉めようと窓に近づいた。その時、嫌な寒気が走った。
思わず窓に映る自分の姿を見た。そこには、自分の背後にもう一つの影が映り込んでいる。それはさっき庭にいた影と同じくらいの小さな人影だった。ガラス越しに、その影が俺のすぐ後ろで静かに立っているのが分かった。
呼吸が止まる。振り向きたいのに、恐怖で体が動かない。窓ガラスに映った影は、ゆっくりと首を傾けた。
必死に勇気を振り絞って振り向いた。
しかし、背後には誰もいない。ただのリビングが広がっている。床も壁も、何も異常はない。俺は震える手でカーテンを閉めた。そして、ソファに戻り、息を整えようと深呼吸した。
その時、スマホの画面にふと目をやると、暗くなった画面に自分の姿が映り込んでいた。
そこには俺の顔――と、その背後に立つ小さな影が映っていた。
その影が、俺をじっと見下ろしている。俺は声も出せず、ただスマホを落として固まった。
もう確認する勇気もない。ソファにかけてたブランケットにくるまり朝になるのを待った。
朝、起きてきた家族に起こされた。いつも通りのリビング、いつも通りの日常が戻っていた。夜中の出来事が嘘のことのようだ。
あれ以来あの影を見ることは無い。だが今でも夜になるとあの影が目に入ってくるのではないかと、窓の外を見ることができない。
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